「あかり」の観測成果

「あかり」が捉えた宇宙最初の星の光

赤外線天文衛星「あかり」が波長1~4マイクロメートルで空の明るさを観測し、既知の天体では説明できない大きな明るさのむら(揺らぎ)があることを見いだしました。これはビッグバンから約3億年後に宇宙で最初に生まれた星(第一世代の星)の集団に起因するものと考えられ、これまでほとんど知られていなかった宇宙初期における星生成活動の解明に重要な貢献をなすものと考えられています。この結果は11月1日発行のアメリカの学術雑誌 The Astrophysical Journal に掲載される予定です。


宇宙はビッグバンで始まり、膨張しつつ現在の姿になりました。マイクロ波宇宙背景放射によって直接観測される誕生40万年後の宇宙は極めて一様かつ等方であることが知られています。一方現在の宇宙は、星や銀河などの密度の高い天体が存在する一方、ほとんど物質が存在しない宇宙空間がある等、極めて非一様です。大型地上望遠鏡の観測によれば、宇宙が始まって数億年後には既に銀河が存在していることが知られています。しかしこの間の宇宙については観測が全くなく、「宇宙史の暗黒時代」ともいわれています。最新の理論的研究によれば、この暗黒時代に宇宙第一世代の星 が生成され,非一様な宇宙に進化するきっかけになったと考えられています。しかし、この星は極めて暗いため、個々に直接観測することは極めて困難です。そこで、松本敏雄宇宙科学研究所名誉教授・ソウル国立大学客員教授を中心とする研究グループは、第一世代の星の集団を背景放射(空の明るさ)として観測することを試みてきました。

今回、同グループは、日本が打ち上げた赤外線天文衛星「あかり」(注1)によってりゅう座の方向を半年にわたって観測し、空の揺らぎの観測を行いました。波長2.4、3.2、4.1マイクロメートルで得られた画像から手前にある天体の光を取り除いたところ(図 1)、その残りとして得られた背景放射成分に有意な揺らぎが見いだされました(図 2)。この揺らぎの振幅はかなり大きく、既知の放射成分(太陽系内の塵による黄道光、銀河系内の星の光、遠方の銀河の光等)で説明することはできません。揺らぎのパターンは3波長でほとんど同じで、また観測された赤外線のスペクトルは遠方の青い星の光と考えて差し支えないものです。これらのことから、観測された揺らぎは、宇宙第一世代の星の集団の分布によるものと結論できます。

Fig.1

図 1: データ解析の流れ。波長2.4マイクロメートルについての場合を例として示す。 1. 「あかり」が 1 ショット(約44秒間)で撮った画像。視野は約10分角(1分角は1/60度に相当する角度)。写っている天体のほとんどは遠方の銀河。 2. データの質を向上させるため、半年の観測期間中に得られた40枚の画像を重ね合わせた結果。視野が季節に伴って回転するため、重ね合わせた画像は直径10分角の円となる。 3. 天体と同定されたものを全てマスクすると空の揺らぎが見えるようになる。主な揺らぎ(小さな角度での揺らぎ)の原因はランダムに分布している同定されなかった暗い銀河によるものである。 4. 各ピクセルを中心に直径50秒角の円内を平均化(スムージング)した画像。小さな角度での揺らぎが押さえられる結果、大きな角度での構造がはっきりと見える。明るい部分を黄~赤色、暗い部分を青色で示す。

Fig.2

図 2: 「あかり」が観測した北黄極方向の空の明るさのむら(揺らぎ)の最終結果。左から右へ波長2.4, 3.2, 4.1マイクロメートルでの画像。青~赤~黄色の順に明るくなっている。揺らぎの強さは波長2.4マイクロメートルで空の明るさの約2パーセント。円の直径は10分角で、放射の起源を宇宙第一世代の星とすると、現在の宇宙の約100万光年に相当する。

観測された揺らぎの角度スケールは100秒角(1秒角は1/3600度に相当する角度)より大きく、現在の宇宙の大規模構造(銀河が多く集まっている場所や、ほとんど銀河が無い場所があるという宇宙の非一様な構造)に相当する大きさです。この角度スケールは宇宙最初の星が暗黒物質の密度が高いところで形成されたという理論的予測とも一致します。このことは宇宙第一世代の星が生成された時期(宇宙が始まって約3億年後と想定される)に既に大規模構造が存在していたことを示しています。

この種の観測はこれまでにも試みられていますが、観測領域が極めて狭かったり(ハッブル宇宙望遠鏡[1])、長い波長での観測に限られていたり(スピッツァー宇宙望遠鏡[2])したため、明確な結論が得られていませんでした。大規模構造を直接的に示すはっきりした画像が得られたのは今回が初めてです。

1995年に打ち上げられたスペースフライヤーユニット[3] に搭載された赤外線望遠鏡IRTS[4] による同グループの観測では、宇宙第一世代の星に起因すると思われる背景放射成分が検出されています。今回の結果は、揺らぎを測定することにより、観測的に第一世代の星の存在を確実にしたものです。

今回の観測結果は宇宙の暗黒時代を探る上で極めて重要なものであり、宇宙第一世代の星の形成と進化、大規模構造の形成などの研究に大きな影響を与えるものです。

本研究は宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所(松本敏雄名誉教授、松原英雄教授、松浦周二助教、和田武彦助教、大薮進喜研究員(現名古屋大学助教))、ソウル国立大学(松本敏雄客員教授、Lee, H. M.教授, Seo, H. J. 大学院生)、韓国天文研究院(Jeong. W. -S上級研究員、Pyo. J. 研究員)との間での共同研究として行われました。


  1. NASAが1990年に打上げた口径2.4メートルの宇宙望遠鏡。紫外線、可視光、近赤外線で、極めて高い解像度の宇宙画像を数多くもたらした。
  2. NASAが2003年に打上げた赤外線天文衛星。口径85センチメートルの望遠鏡を搭載。
  3. 1995年に打上げられた日本の多目的衛星。約1年間軌道上で運用された後、若田光一宇宙飛行士によりロボットアームで把持され、スペースシャトルで地上に回収された。回収されたスペースフライヤーユニットは東京上野の国立科学博物館に展示されている。
  4. スペースフライヤーユニットに搭載された実験装置の一つで、日本初の宇宙赤外線望遠鏡。

Materials

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